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ラノベ: 『ソードアート・オンライン7 マザーズ・ロザリオ』再読レビュー

 現在アニメも放送中の『ソードアート・オンライン』ですが、そのアニメの先週の予告でそろそろアインクラッド編が終了することが予測されたため、予習の意味合いも兼ねてフェアリィ・ダンス編を読み返していました。
 そうしたら、読み終わったところで、もう一冊、読み返したいと思うものが出てきました。それが、シリーズ中ではちょっと異色の作品、「マザーズ・ロザリオ」です。
ソードアート・オンライン〈7〉マザーズ・ロザリオ (電撃文庫)ソードアート・オンライン〈7〉マザーズ・ロザリオ (電撃文庫)
(2011/04/08)
川原 礫

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 このシリーズの原作本は、アニメが始まった頃にやっと読み始めて感想もその頃に書いたわけですが、この「マザーズ・ロザリオ」については、3~8巻まとめての感想でちょっと書いただけだったので、今回ピックアップしてまとめてみることにしました。

 そんなわけで、今日はソードアート・オンラインに関連するエントリが二つ重なってしまった(笑)のでした。

 さて、冒頭でこのエピソードについて、シリーズ中ではちょっと異色と書きましたが、それはまあ簡単に言えば、アスナが主人公の立ち位置にいるからです。そして加えて、そのことにより(視点が違うだけでなく、作風もそれに合わせてあるのか)、だいぶ雰囲気が違うこともあります。
 キリトというかなり破天荒な人物を追うエピソードは、やはりかなり展開もそのようになる宿命があります。
 対するアスナはと言えば今回そのプライベートな面がわかったわけですが、それにより、かなりしっとりとした、慈愛や哀切に満ちたエピソードとなりました。

 しかしながら、今回アスナとテーマ的に双璧をなす人物である≪絶剣≫ユウキは、今回明されたアスナの抱える事情から形成された性格とは対照的に、からっと明るいキャラクターです。
 その一人称が「ボク」であるようなところも含め、つい思い出してしまうのが、エロゲから始まりコンシューマ展開、そして二度もアニメ化された名作『Kanon』のあゆです。あのとぼけたキャラのあゆのストーリーがあのような展開であったのは、更に他に連想したキャラである『To Heart』のHMX-12(通称マルチ)をも含めて、「マザーズ・ロザリオ」との類似性を感じました。

 そして、もっと連想は進み、一昨年の夏にNHKでやっていたアニソンの特集に登場した田中公平氏が言っていたことなんですが、「メジャー泣き」という言葉を思い出しました。その番組に同じく出演していた神前暁氏が名付けたらしいのですが。
 これは、短調のメロディーで泣けとばかりに泣かせるような歌ではなく、その美しさとかでつい、というものです。
 本作も、そんな感じですね。まあ、ラストはかなり直球ですが。

 ストーリーは、ALOに統合されたアインクラッドで、≪絶剣≫と称されるとてつもなく強い人物が現れて、毎日希望者と対戦しているという噂をアスナが耳にしたところから始まります。
 その≪絶剣≫がユウキという少女で、アスナとユウキの二人のつながりを軸として物語が展開し、アスナとユウキ二人それぞれのリアルでの事情が、絡み合うように解き明かされていきます。

 そして、アスナはユウキの、ユウキはアスナの存在に救われ、哀しいながらも幸せな想いに包まれた結末を迎えるのです。

 アスナについては、家庭の事情で悩む明日奈の葛藤の救いのなさが、このように表現されています。

「キリトくん……」
 今すぐ会いたい。現実世界でなくてもいいから、あの家で二人きりになって、彼の胸で思い切り泣いて、全てを打ち明けてしまいたい。
 でも、できない。キリトが愛した自分は、この無力な結城明日奈ではなく、最強剣士に名を連ねた≪閃光≫アスナなのだという認識が重い鎖となって明日奈を絡め取っている。
『アスナは……強いな……。俺よりずっと強い……』
 かつてあの世界でキリトが呟いた言葉が耳許に蘇る。明日奈が弱さを露わにした途端、彼の心が離れていってしまうかもしれない。
 それがとても怖い。

p58より

 ちなみに、p141にこんなモノローグがあります。

 しかし同時に、弱くなりたい、と叫ぶ声がする。自分を偽らず、泣きたい時に泣ける弱さ。すがりつき、わたしを守って、助けて、と言える弱さが欲しい。

 p58の明日奈の恐れと併せてみると、ここで言う「弱さ」こそが、自信であり求める強さなのかも知れません。
 なお、一巻のラスト辺りでキリトはアスナのことを、「あんなに甘えん坊で淋しがりやだったアスナが」と表現しています。

 ともあれそんなアスナがデュエルを挑んだユウキは、なんと、アスナにとって絶対的強者であるキリトをも、まあ彼は二刀流を使わなかったにせよ、打ち負かしていました。

 勿論アスナも勝てなかったのですが、ユウキがアスナを気に入り、自分の仲間のところに連れ去って(笑)、自分達の目標を明かすのです。
 それは、自分達のギルド単独でボスを倒して、名前を残したいということでした。彼らは間もなくALOから去ることになるだろうから、と。

 アスナはそれに参加することとなり、自然に、血盟騎士団時代の経験を活かして、攻略の戦術を担当することになりました。
 そして、何やらデュエルのときにユウキの秘密をある程度察したらしいキリトの助けもあって、見事目標を達成しました。

 しかし、ユウキはそのまま姿を消してしまいます。

 ユウキの現実での素姓については、これもまたキリトが察しており、それは正しかった。キリトの推測通り、ユウキは病院にいたのです。

 ユウキのゲーム中での強さは、ハード的にも経験の面でもある意味自然なことですが、その心の在りようも、明日奈を救うことになります。
 明日奈の家庭の事情は、つまりは、母とのすれ違いでした。そしてユウキは、そのことについてこう言いました。「ぶつからなきゃ伝わらない」と。
 その言葉を胸に明日奈は、母に自分の想いを真っ直ぐに伝えることで、敵対していた相手を倒すようなやり方ではなく、そもそも敵対関係そのものを解消することができたのでした。

 しかし、ユウキがアスナを気に入ったのも、そして最終的にはユウキが明日奈を救ったのも、結局はアスナ/明日奈自身がユウキに「ぶつかって」いたからです。ゲームでも、そして現実でも。そのことで、明日奈がユウキの抱える事情に喰らい付いて追求したからこそ、キリトも支援することができたし、結果、ユウキの心を救うことができたのです。

 本エピソードのサブタイトルとなっている「マザーズ・ロザリオ」は、新生ALOに導入された「OSS(オリジナル・ソードスキル)」で、物語の最後にユウキが編み出し、アスナに継承したものの名前です。それをアスナが受け取ることで、ユウキは、求め続けてきた「自分が存在する意味」の答えを得ることができたのです。
 「意味」などなくてもいいのだ、という答えを。

 ≪マザーズ・ロザリオ≫という名前は、ユウキの母がクリスチャンであったことから来ているのでしょう。それは、母が自分を守ってくれたようにアスナを守ってくれるだろう、という意味だと思われます。きっとアスナを守ってくれる、とユウキは言いましたから。
 しかし同時に、私は思いました。
 ユウキはアスナに、「母」を感じていたのではないか。重ねていたかどうかは別として、何か通ずるものを感じていたのではないか。だから、そういう意味も込められているか、もしくは無意識にでも命名に影響したのではないか。

 最後に、やっぱりこの作品は、これまでのレビューで指摘してきた通り、「本物」とは何かを表現していると思います。
 アスナが母に見せた、アインクラッドの杉林。
 全てが作り物の世界ですが、であるからこそ、まるで砂金を掬う皿のように本物が見えてくるのかも知れません。

tag : 電撃文庫 川原礫

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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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