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独り言: 「息切れクールジャパン」 by Newsweek日本語版

 どうやら私は健忘症にかかってしまったようです。もしくは解離性同一性障害か。
 何かというと、気付かないうちに「ダン・グルネバウム」の名前でニューズウィーク紙に寄稿していたらしいのです。

 と言いたくなるくらい(笑)、我が意を得たりという特集が組んであります。そのトップを飾る「クール・ジャパンのお寒い現実(IS COOL JAPAN GOING COLD?)」というのがグルネバウム氏の手によるもので、関係者に是非読んで欲しいと思えることが沢山書いてあります。
 以下、結構な分量になりますが、引用しつつ紹介します。

 まず、人材について。

日本の若いアニメーターは年収100万円程度の薄給で長時間労働を続け、燃え尽きるケースが多い。日本は美術館やコンサートホールといった施設にはカネをつぎ込むが、クリエーティブ産業の人的資源には投資を怠ってきた。

 私の知り合いのアニメーターも、今でこそキャラデザや総作監なんかやってますが、あれはご両親の実家に住んでいて色々な支援があったからこそだと思います。ま、家庭の事情を突っ込んで聞いたことはありませんが。
 これまでにも散々書き散らしてきましたが、日本は無形のものに価値を見出さない社会ですよね。

 この引用部のちょっと前に、「(アニメの)価格の高さを問題視する声もある。そのせいで違法なストリーミングやダウンロードが増えている」とあります。まあ確かにバカ高いですが、でも問題はそこだけじゃなく、たとえ売れたとしても彼ら(製作でなく制作)の収入が増えるわけじゃないし。ただ、それでも彼らの「今後の仕事」につながるかと思って私は結構BDとか買ってますけど。
 京都アニメーションみたいに、自分でスポンサーなんかできるようになるとまた話は違ったりするんでしょうか。
cooljapan_kyoani.png

 次に、マーケティングについて。

「創造性はマーケティングによっては生まれない」と、明治大学の「クールジャパン・プログラム」の責任者を務める北脇学講師は言う。「経産省は大企業にキャンペーンを依頼した。これで、クール・ジャパンは企業の金儲けの手段になってしまった」

  まあこれについては、大企業に依頼したから云々というよりも、そもそも経済産業省が絡んだのだから当然の帰結だと言うべきでしょう。

 そして続いてキャッチフレーズについて。

 そもそも外国人がそう呼ぶならまだしも、日本人自身が自国を「クール(かっこいい)」と呼ぶのはかなり情けない

(強調は引用者による)

 その通り。関係者はそう思わないのだろうか。思わないとしたらその狂った感性で何かができよう筈もない。つまり、「クール・ジャパン」は、誕生したときから失敗の宿命を背負っていたわけです。
 加えて、キャッチフレーズ自体が他国のパクりっていうのはもう、存在自体が自己矛盾を抱えています。

 更に追い討ち。

 一方の日本はこの10年、「クール」に固執してきた。しかもクール・ジャパンが持ち上げるのは、クールとは対極にあるようなオタク文化だ。

 クール・ジャパンとか言ってる人たちは、そもそも自分達が何を扱っているのかわかっているのでしょうか? なんかわからないけど売れるらしいから売ろう、そんなとこじゃないでしょうか。
 先日、NHKスペシャル『追跡!世界キティ旋風のナゾ』の感想を書きましたが、そこで私はこう強調しました。
「何を変えないか」が重要である
 これはつまり、変えてはいけない本質が何であるかを理解している必要があるということでもあります。営業担当が自社製品のことを知らないで仕事になるのか、ということですね。
 この番組の中で、中国人バイヤーとの間でこういうやり取りがありました。日本のトップアイドルとやらを主人公にした映画を売り込もうとしているところです。

「日本の女の子のアイドルを起用してホラーを作ってるんですけど」
「どこの市場を狙っているの? 日本? 韓国? それともアジア?」
「中国を狙うならば中国のアイドルをメインにしてアジア圏の俳優を一人か二人加えるくらいでちょうどいいわ」

 このケースでは、映画を売りたいのかアイドルを売りたいのか? どっちなんでしょうね?
 それがわかっていないから黙り込むことになってしまう。

 結局この記事では、こう提案しています。

 日本はもっと効果的にソフトパワーを売り込むため、まずは「クール・ジャパン」という宣伝文句を捨てるべきだろう。

(強調は引用者による)

 まず最低限これは必要ですよね。そして、ビルボードの元アジア支局長スティーブ・マクルーア氏はこう指摘します。

「だが、ある文化現象に国名を付けて売り込むのは危険だ。ポップカルチャーには流行があるから、クールなものもクールでなくなる」


 K-POPの話も出てきます。

 この点では、日本は韓国よりも有利だろう。J-POPはK-POPに負けてはいるが、日本のエンタメ産業は幅が広く、さまざまな分野で成功を収める潜在力がある。ベテラン歌手の由紀さおりのアルバムが作年末、アメリカとカナダのチャートで1位になったのがいい例だ。

 これについてはちょっと疑問もあります。
 そもそも日本のものと韓国のものは比較すべき対象なのか?
 K-POP等のいわゆる「韓流」は、文化ではなく工業製品ですよね。しかも、部品を輸入して組み立てて輸出しているわけです。そういう意味では、日本が日本で生まれた文化を扱っているのとは違い、どこにも拘らなければいけない要素がない。ということは、幅広さという意味では無限です。そういう意味では日本よりも韓国の方が有利なのではないでしょうか。
 ただし、繰り返しになりますが、これは喩えて言えば第二次産業と第三次産業を比較しているようなものなので、あまり真面目に追求しても得るものは少ないでしょう。

 こんなアドバイスもあります。

お役所仕事が足を引っ張っている。誰も読まないパンフレットをせっせと作るより、漫画家が外国語のサイトを作成できるよう後押しするなど実質的な支援に注力すべきだろう。

 以前、これもNHKの番組の『ニュース深読み』での由紀さおりと初音ミク特集を見たときに思ったことですが、番組中にこんな趣旨のコメントがありました。
 ネットで出会ったものには、自分で見つけたという感じがあり、あまり売り込まれているという気がしない、と。
 これは逆に言うと、出会って「これは何だろう?」と思ったときに、確実に答えが見つけられる、実物に辿り着けるような環境を整えておく必要があるということでもあるでしょう。

 以前にも言ったことですが、文化というのはある意味毒を含んだものであり、「文化侵略」などという言葉が存在するくらいです。だから、あまり露骨に押し付けるべきではないし、異なる文化圏に浸透させるためには、受け入れる側が咀嚼すべきだと思います。発信側が相手にすりよるべきではない。工業製品などとはローカライズのレイヤも手法も異なる筈です。
 そのためには、興味を持ったときに「自分で」調べられるように発信側が環境を整えておく必要があります。興味を持ってくれた人には、いくらでも付き合ってあげられるように。できれば、相手の文化圏の人をこちらに用意して。
 その上で初めて、相手が受け入れられるようなものができあがるのではないでしょうか。

 これも上記の『ニュース深読み』で言っていたことですが、昔は持ち運びが困難だったから持って行くことと売り込みは一体化していました。しかし、今はネットがあります。
 だから、ここに述べたようなやり方が現実的に可能になっていると言えます。

 そして最後にこの記事では、ミュージシャンや料理人、デザイナーや建築家等を挙げて、ポップカルチャーだけでなくもっと様々な分野の人たちを支援すべきだとしています。
 とにかく、これは文化戦略とか何とかだけでなく、日本は人を軽視しすぎています。ものづくり大国、技術立国だから、人よりもモノ、人よりも技術が大事、という感じです。しかし、一体誰がものを作り、技術を磨いているのか。

 先日、こういう本を読みました。お奨めです。
経営者の大罪――なぜ日本経済が活性化しないのか(祥伝社新書276)経営者の大罪――なぜ日本経済が活性化しないのか(祥伝社新書276)
(2012/06/02)
和田秀樹

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 精神科医が日本の企業経営を論じています。いかにも畑違いですが、しかし、日本の経営に最も欠けている、そして最も重要なことが沢山書いてあります。それはつまり、最も重要なことが欠けているということです。
 畑違いらしく所々にデータの読み違いやちょっとした齟齬がありますが、本書の趣旨に影響するものではないでしょう。
 本エントリに関係の深いテーマを挙げれば、ブランドイメージというものがわかっていないとか人が大事とかですね。

 クールジャパンだか何だかの復活(そもそも流行ったことがあるのか疑問ですが)と、日本経済の復活。これらへの処方箋には、かなり共通したものがあると思います。それは、実際にものを作ったりしている人の重視です。
 逆説的ではありますが、それは管理職や経営者自身にも当てはめられるでしょう。
 これも散々指摘しましたが、人を計る物差しが一本で一次元ではダメです。あいつはできるから管理職にでもしてやろうとか、技術者が経営をやりゃいいだろとか、それはまた今度は、ものを作る人を軽視するのと同じように管理や経営をする人を軽視している。そんなの誰にでもできる仕事だろう、と言っているのと同じですから。

 そういえば、「草食男子」なんて言葉が、産みの親の意図とは随分違う使われ方をしているそうですね。仕事の場でも、あいつは出世したがらない草食系だとか。
 しかし、新卒当時のことを思い出してみると、出世なんて馬鹿馬鹿しいと感じたものです。だって、課長とかになっても(私にとっては)下らない仕事しかないし。大きな仕事をするようになって自分でやりきれない分を任せるとかじゃなく、一線を退いて管理に専念するわけですからね。で、現場から技術が失われる、と。
 かと言って現場にいたのでは、ヒラの給料なんて高が知れているし、社会的地位も低い。仕事の内容が良くても、そういったことは地味に効いてくるものです。
 そんなことを思ってからもうだいぶ経ちますが、最近になっても全く同じことをよく聞きます。日本の大企業(特に製造業)は、落ちぶれるべくして落ちぶれたということではないでしょうか。

 ともあれ、そんな社会が生み出した「クール・ジャパンw」。
 これの復活が可能になったとすればそれは上記のような社会が変貌したということであり、それならば日本経済の復活も夢ではありません。
 日本の文化戦略の成功は、因果関係でこそありませんが、日本経済の、ひいては日本人にとっての将来の希望の鍵でもあるのではないでしょうか。

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まとめtyaiました【「息切れクールジャパン」 by Newsweek日本語版】

 どうやら私は健忘症にかかってしまったようです。もしくは解離性同一性障害か。 何かというと、気付かないうちに「ダン・グルネバウム」の名前でニューズウィーク紙に寄

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