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ラノベ: 『ありすさんと正義くんは無関係ですか? 3』 仏様のおしえ(2)

 二巻の感想にも、タイトルにおまけとして「仏様のおしえ」と付けましたが、今回のはまさに、仏教の根本を説いた話のように感じました。
ありすさんと正義くんは無関係ですか? 3 (HJ文庫)ありすさんと正義くんは無関係ですか? 3 (HJ文庫)
(2012/03/30)
わかつきひかる

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 あとがきにもありますが、一巻がありすの話、二巻が篤子さんの話、そしてこの三巻は正義くんの話です。
 というか、あとがきからそのまま書き写すと、

 一巻目はありすさんが主人公でしたが、二巻目は篤子さんがヒロイン、そして三巻目のこの本は、正義くんが主役のお話になっています。

となっており、「主人公」「ヒロイン」「主役」と三つ全部違うのは(笑)。
 でも、思うに、読者の視点がどの辺りに行くようになっているかを考えてみると、それぞれのニュアンスがそれぞれにマッチするような気もします。

 というわけでこの話は正義に焦点が当てられています。
 ありすは一巻で既に一歩前進していたし、篤子さんも二巻で大事なことに気づきました。
 そして三巻では、物語のそもそもの発端である、正義のトラウマがテーマになるのです。これがあったから正義のみならず篤子さんもあのようになり、ありすも関係してくることになったわけですから。

 ある日、それは突然起きました。
 正義たちのクラスにやってきた教育実習生の芝辻先生(仮)が、あの「いじめっ子」だったのです。

 篤子さんは当然気づき、正義感に溢れる彼女にしては意外なくらいつっかかります。おかげで、周囲から「先生を意識している」とか、ツンデレだとか思われたり大変なことにっ(笑)。芝辻先生は実は結構頑張っていて評判もいいので、そんなことにもなろうというものです。
 一方のありすはといえば、正義の様子から何かを感じ取っています。
 そんな中、ありすと篤子さんの二人が、正義の家に遊びに来ることに。正義の両親が旅行に行ってしまうから、というかその隙にというか(笑)。勿論、内緒でこっそり、というわけじゃないですけど。
 その流れで、数日後に今度は泊まりに来ることに!

 どうでもいいですけど、篤子さんはすっかりありすにいじられるキャラになってますね。
 ストーリー上ではもっと後の話ですが、先生に対する態度についてありすにツンデレとか言われて、

「デレてないっ。私がデレるのは鈴木くんだけよっ」

と返してしまうとか、お泊まりのときに正義のベッドを確保したら、「鈴木くんの匂いがするぅ」とか口走ってネタにされるとか、どうにも脇が甘い(笑)。

 そういう展開と並行して学校関連では、正義の様子からついにありすが正義から、過去の経緯を聞き出します。
 そして、ありすが芝辻先生を問い詰めたところ、なんと、彼はそれを憶えていない、と。
 自分の気持ちは一体何だったんだと衝撃を受ける正義。まあそうですよね。

 ところで、こうした背景の中で、正義のうちの寺の兄弟寺院の住職である橋本さんという人が登場します。鈴木夫妻が旅行で留守にするというので様子を見にくるのですが、この人が超重要。
 この少し後に、体調を崩して短期間ですが入院することになります。で、正義たちが見舞いに行くと、なんとそこに、あの芝辻先生登場。
 橋本さんは離婚しているのですが、子供は奥さんの方に引き取られています。その子供というのがなんと、芝辻先生でした。
 奥さん、つまり芝辻先生の母親という人は、寺というものがいやで仕方がなかった。霊が見えるからと言っていますが、まあそれは本当かも知れないし口実かも知れない。
 だから、子供である芝辻先生も複雑だった。寺はいいところだという話と否定する話を両方聞かされて。
 迷っている自分と比べ、死んだ小鳥を埋める正義には迷いがなかったために、ついいじめとしか言い様のないことをしてしまったのです。

 芝辻先生は、まあいつかはと思っていたのですが、これを機に寺を継ぐことを決め、おまけに付き合っている彼女と結婚することにします。
 で、その結婚式を、正義のうちの寺で仏前ですることになります。

 物語としては、それを正義がありすと篤子さんを采配してやり遂げる、そういうことになります。

 ところで、この話の感想として書いているこのエントリのタイトルに「仏様のおしえ」と付けたのには、その辺りの展開の背後にあるもの、それが非常に仏教的だと感じたからです。まあ、宗教というのは大概そうかも知れませんが、やはりそういうことを特に深く追求したのが仏教なのでは、という気がします。

 子供の頃のいじめからずっと重荷を背負ってきた正義。
 心の重荷というのは、モノの重荷と同じように重荷なのに、大きく違います。どうでもいい、なんでもないように見えることが当人にとってはどうしようもないことであったり、逆に、とてつもなく重かった筈のものがあっさりとなくなってしまったり。
 そこには、モノの世界とは全く違った法則があうようです。いや、もしかすると法則はそう違わなくて、パラメータが違うのかも知れません。例えば、日常生活では質量保存の法則が成立するように見えるように。観測が対象に影響を与える不確定性原理が日常生活に登場しないように。

 正義の「煩悩」(煩悩は別にエロと同義というわけじゃないし)の大本は、現実にはもうそこにはなく(つまりいじめっ子はとうに去っており)、自分の気持ち次第でどうにもなるものでした。
 でも、その自分の気持ちこそが問題を抱えているわけで、そこには堂々巡りが。病気を治すための体力がないようなもんですね。
 しかしここで、事態に向き合うチャンスが訪れたわけです。つまり、いじめっ子本人の再登場です。
 勿論、正義にはチャンスなどと思えるはずもなかったのですが、そこには、ありすと篤子さんという人物がいました。
 見て、理解すればそれは変わってしまう。そして、芝辻先生との再会のときにありすと篤子さんがいたという「縁」。まあ、篤子さんの場合は経緯からして必然、つまり因果とも言えるのですが。
 こういった辺りが、まるで現代風の仏教説話みたいな感じがするなーとか私には思えた、とそういうわけです。

 ところで、篤子さんは二巻で概ね問題を乗り越えてしまったし(今回はその結果を認識するくらい)、今回正義の問題もほぼ解決したわけですが、ありすの過去、これは?
 それは、ある日唐突に、あっけないくらいに解決します。こちらも、本質的な問題はありすの心のありようなので、私はこれで「解決」と見ました。
 何が起きたかというと、三人でいたときに、ばったりとありすの昔の知り合い、というかいじめっ子に遭遇するのです。
 でも、ここでも二人がいました。つまり、正義と篤子さんとの「縁」です。

「校倉さん。この人、誰? 親戚の人か何か?」
 ──言え。ありす。言ってしまえ!
「と……」
 友達なの、と言いかけたありすを遮って、篤子が言った。
「恋人よ!」
「恋人?」
「鈴木くんと校倉さんって、元千葉高校で有名な、公認の恋人同士なのよ」
 いじめっ子たちの顔に、敗北の色が走った。
 但馬を見ていてわかったのだが、女の子たちは、彼氏ができること、イコール、ステージがあがったと考える。
 自分の価値は自分であげるもの。誰かにあげて貰うものではないと思う正義だが、それは男の理屈であり、女の子はそう考えるらしいのだ。

 「女の子の理屈」を理解していた篤子さんと、(篤子さんが渡したヘアゴムで髪を縛った)イケメンの正義。この巡り合わせです。
 しかし、この辺りは中々に恐ろしい展開ですね(笑)。

 ちなみに、ありすと篤子さんは恋愛同盟、じゃなく(笑)互いに出し抜かない協定を結んでいたんですが、ここは緊急事態ということで。

 最終的に、結婚式は成功裡に終わり、芝辻先生の家庭、つまりは母親のことにも進展あり。万事うまく行って、さて、三人の関係はどうなるのか?
 どうやら、タイトルに篤子さんを加えた三人は「無関係ですか?」の問いに対しては、無関係ではないようです、という答えが出た、というところかと。
 まあ、表紙の正義の髪を切れば概ねそれで表現できているのでは?

P.S.
 どうしても篤子さんだけは「さん」づけで呼びたくなる不思議(笑)。

tag : HJ文庫 わかつきひかる

コメント

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No title

私にしては珍しく(どういうことやねん……)、時期を逃さず購入・読了できました。
シリーズ当初から思ってましたが、この作品は不思議な空気を持ってますね。なんとも形容しがたいですが、それゆえに惹かれているものがあるのも事実かと。
でもこのシリーズ、もう終わっちゃうんですよね。残念です。「AKUMAで少女」を超える5巻に到達できるのかと期待してたんですがね。

>恋愛同盟、じゃなく(笑)
深○奈・樺○「解せぬ」

>篤子さんだけは「さん」づけで呼びたくなる
分かりますw

Re: No title

> この作品は不思議な空気を
あとがきにも「かなりの変化球になってしまった」と書いてありますし。
二巻の感想でも似たようなことを書きましたが、最終的にうまくいくまでが結構大変な話だったりしますよね。
でもそのためか、読んだー、という感じがします。

> もう終わっちゃう
まあ、三人それぞれの話で計三巻というのは、結果的には丁度いい感じになったのではないかと思います。
巻数はともかく、予定したところまでは書けたようですし。

> 「解せぬ」
協定の内容が開示されていませんからね。どんな条項があったのか?

> 分かりますw
ちなみに、私は篤子さん派だったりします。特に、ありすにいじられているところとか(笑)。
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水響俊二

Author:水響俊二
水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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