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読んだ: 『PC遠隔操作事件』感想

 世間を騒がせたという意味では大事件だった所謂「PC遠隔操作事件」の取材なんかをまとめた本です。

PC遠隔操作事件
PC遠隔操作事件
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神保 哲生
光文社
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 それとはあまり関係ない個人的な話ですが、この夏は何故かちょっとITづいてました。結局手を入れる必要はなかったのですがLinuxのカーネルいじったり、6年くらい前に書いたCのプログラムを手直ししたり、ラノベ『なれる!SE』が完結したり、購読しているメルマガ/ブロマガでITの話してたり。
 中には、今回の本に関係あることも。部屋の掃除をしてたら、5年前(2012年10月29日)の読売新聞でPC遠隔操作事件の誤認逮捕について検証した記事の切り抜き、というか1ページまるごとですけど出てきたり。

 まあそれはさておき本の感想です。
 まず表紙ですが、……猫ですね。この事件、猫(のまネコ)に始まり(江の島の)猫が締めくくったというかそんな面があります。多分、そういう意味でこうしたのでしょう。
 当時私もそれなりに興味を持って追い掛けていたわけですが、その範囲でもあり事件が事件として進展していた頃の、公判の前くらいまでのことは、分量としては概ね1/3くらいですね。裁判関連のことがこれも1/3くらい。残り1/3くらいは分析、という感じ。

 で、読んでの感想ですが、この「PC遠隔操作事件」。主役は警察だったように思います。

 一連の「事件」として最初に発生したのが横浜のCSRF事件ですが、現象面はともかく意味的には、これはまだ「PC遠隔操作事件」ではなかった。片山(本文にならい原則として敬称を略します)はこの時、身を隠しただけのつもりだったようです。
 しかし、そこでまさかの誤認逮捕が起きてしまった。その「犯人」は犯行の動機や、未公開の情報まで「自白」しています。
 片山はそれでPCを遠隔操作する方向に動き始めるのであって、彼のいたずらを「PC遠隔操作事件」に方向付けたのはこの神奈川県警だったわけです。
 そして曇取山。埋められたUSBメモリを警察が発見できなかったことで彼の計画は狂ってしまい、想定外の対処をすることに。で江の島の猫が登場するのですが、それが逮捕につながることになったわけで。

 結局、警察のミスが全てをドライブしていたと言っても過言でないくらいですね。

 しかも、逮捕後のことはあまりよく知らなかったし、もう色々と忘れてしまったことも多いのですが、警察は取り調べができてなかったんですね。録画等の記録を拒否したことで。
 著者が彼にした質問(p257)くらいで狼狽えるような有り様だったのだから、きちんと取り調べができていればそこでボロを出した可能性は確かに高い。つまり、裁判をこじらせたのも警察だった。

 判決も、主役は警察みたいです。ただこれは、ちょっと可哀想とも言えるものですけど。
 判決では、「高度な知識・技術を最大限に駆使し」たこと等も含め「サイバー犯罪の中でも悪質」としているらしい(p397)。しかし、そこで指摘されていることを見るに、どの辺りがそんなに高度なのか、と。
 そういうことを思いながら読むとこの判決、警察にとってその程度のことがそんなに高度だったのかとかいうことになり、哀れになってきます。もうやめて、警察のライフはゼロよ!

 まあある意味で煽り耐性の低さが暴走させたというようにも言えますが、耐性の低さには、感受性の高さという面もあると思うんですよ。つまり、同じ刺激でもこういう場合には特に、みたいなのが。
 この事件でそれが増幅された理由を考えてみると、ITがキーワードかな。
 例えば、ある犯罪が起きたとき。犯人がスポーツマンだったら、「スポーツやってるのにどうして」という感覚が多くの場合働くものです。これがパソコンオタクだったりすると「やっぱり」となる。そして、こういう感覚は特に、警察のような組織では強いように思いますね。警察はITが苦手なだけでなく、嫌っているし蔑視もしている。「違う世界」(p510)というのは「下」ということです。
 日本で公的な機関がハッキングのイベントをやったりセキュリティ関連のボランティアを募集したりすると、大概誰かが「ブラックリストに載るんじゃね?」とか突っ込みますし。

 ただ、この4人の誤認逮捕の被害者を出した事件からもう5年程は経つわけで、色々と意識も変ってきているんではないかなとは思います。
 思いますが、冤罪の恐怖で社会不安を引き起こしている状況は今でも健在(?)だし、これは警察の話ではありませんが、冒頭に書いたメルマガでは、未だに「偉い人」にはITのことなんか些事だという例が出ています。たとえそれが安全保障の問題であっても。
 或いは、私はいつもメディアについて批判していますが、メディアは特にITが嫌いですよね。わからなくてもしかたない、わからなくてもいい、わからなくて当然、だからそんなことやってるヤツはどっかおかしい。当然、間違った記事を書くのも許される範囲のこと。そういえば「iesys.exe」を「アイシス」と呼び始めたのもどっかのテレビ局らしいとこの本に書いてありますね(p334)。まーそんなことじゃないかと思ってましたが。
 またビジネスの世界でも、海外の企業とトップ会談をして、ITのことだから持ち帰って部下に相談しますなんてことがよくあるらしいし? IT系の大企業であっても。

 ともあれ、今はこの事件はあまりサイバー犯罪という印象がないです。勿論、コンピュータを使った様々なイベントがありましたが、こうして後から振り返ってみると、それは本質ではなかった。今だから言えるわけですが、結局ITは脇役だった。
 片山と警察と司法とメディアが繰り広げた、どたばた騒ぎ。レベルはあまり高くなかった。色んな意味で。
 そして、片山がどうかはわかりませんがその他の主要な役者は、さほど変っているように思えない。

 そういう意味では、似たようなことが起きる素地はまだまだ残っているように感じますね。

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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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