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ラノベ: 『なれる!SE16 2年目でわかる?SE入門』感想

 だいぶ長く続いたこのシリーズも、ついに本編完結ですね。ちょっと感無量です。いや私が書いたわけじゃないですけど。

なれる!SE16 2年目でわかる?SE入門 (電撃文庫)
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 最終巻らしく、前の巻から続く提案の件は実に血湧き肉躍るというか手に汗握るというか、とんでもない展開の末に見事な結末を迎えました。
 また、シリーズ全体を締める意味での結末も続きます。

 ネタバレがデフォルトと宣言している当ブログですが、こういう場合にたまにやっているように、一応この続きはトップには表示されないようにしておきます。

 これまでどんどんと万能度を増してきた工兵ですが、あのままだとなんというか、このシリーズって何てタイトルだっけ?ということになりそうでちょっと……でした。ですが、そこはきっちりと一線を引きましたね。そして、そこに線を引くこと自体が多分、一つのテーマでもある。
 あともう一つ概観を述べるなら、この巻はあの7巻の解決編でもあったように思います。7巻の感想で私はこう書きました。

エピローグに当たる「クロージング」の章では、結局のところ今回の話は、NBL内部の二大派閥の抗争に巻き込まれた形の即ち政治問題であったことが判明します。

 冒頭で、読み終わってもすっきりしないと言った理由の一つはこれです。加えて、振り返ってみれば今回の話は、物事を何も解決していません。なんとか泥沼から逃げ出したという話であり、派閥間の抗争は今後も続きます。

 これまでのシリーズで工兵の撤退戦は多分これだけだったと思うのですが、今回しっかりとそこのところに答えを叩き付けています。

 さて。
 次郎丸に「天井の染みを数え」させたり(笑)、清楚系(!)橋本課長に助言を貰ったり、梢さんには責任取ってね的な覚悟を求められたりしながらの工兵が中心となって、ついにプロポーザルはできました。
 と一言で書きましたが、これ、出来上がったら日本の産業そのものが変りそうな事態になってますね。そこへ至る一番の転換点は橋本課長の一言、「Standardization」。

 ここでちょっと脱線しますが、今色んな意味でバズってるBitcoin。これの基盤となっているブロックチェーンというアイデアですが、日本でも多くの人や団体が関心を持っており、その中に、もうしばらく前からウチは本気だ的なことを言っていた某金融業界の企業がありました。
 少しして簡単な発表があったのですが、……は?自社サービスに使用?どゆこと?て感じでした。
 まあ実際にはモノを見ていないのでなんとも言えませんが、うーん、果たしてどうなることやら。

 まあ話を戻しますが、そういう日本的な何かを根底から引っくり返しそうなことを工兵はやってのけたと言えます。「のけた」と過去形なのは、見事提案が採用されたからです。
 そこで、面白いなと思った光景がありました。提案書の説明会に行った筈が、ディスカッションになっていた。つまり提案書は説明会の前にちゃんと読まれていたということです。いや、それをスルーできない自分がおかしいのかも知れませんが(笑)。

 橋本課長の言葉から着想を得た工兵が赴いたのがアルマダの社長である、そして「世界最大規模のコンピュータ・メーカー、アトランタコンピュータの元日本支社長」であるチェスター・ローズのところ。これは実に現実を反映しているように感じましたが、結局「Standardization」を実現するならばガイアツなんですかねぇ。
 もう一つ同じように感じたのが、同じくこれは梅林の線で会うことになった甘木氏。エンジニアリングが好きでJT&W本社での出世を諦めて関連会社に出向した人。その経歴自体がね。

 そして、今回の提案をまとめる過程で前の巻のラストに登場した貝塚さん。この人は例の7巻で強烈な印象を残した人ですが、今回もそのような立場から立ちはだかります。
 冒頭で「7巻の解決編」のように思ったとしたのは、彼女とのやり取りからです。工兵は彼女にこう言いました。

「いいですか、貝塚さん。僕が興味を持っているのは現場の仕事だけです。あなた方が政治の世界でどんな動きをしようと本来どうでもいいんです。ただ僕らの領分にちょっかいを出すのは許さない。シンプルにそれだけです」

 こう言えるだけ力を付けたのだというだけでも感慨深いものがありますが、でもそもそも、政治の力ってそんなに強いのか。確かに強いでしょう。しかし、できるものはできるしできないものはできない。そういう面も確実にある筈です。
 過去に「どうすれば人を売る立場になれるんでしょうね」と言った貝塚さんですが、そのような立場になったとき、その万能感に溺れていないか。これは、全然関係ない話ですが、よくこのブログでも触れていることを想起させます。

 とまあ、なんだか極めてまとまりのない文章になってしまいましたが、16巻前半の、工兵のSEとしての仕事の話についての感想はこんなところです。
 ここまではこれまでいくつも続いてきたエピソードの、まあ最後なので大きくはありましたがその一つです。しかしこれに続く騒ぎは、工兵自身のことであると同時にシリーズ全体のテーマ、そしてひいては日本の経済の現状にも関わってくるテーマになっています。

 これまで、多分このシリーズを読んだ人の多くにブラックだと言われていたであろうスルガですが、実は私はあまりそうは思いませんでした。むしろホワイトな方だろうと。ただ、今回初めて、逆説的ではありますがごく普通のことに対して、ブラック企業だと感じました。
 以前から話は出ていましたが、工兵、本当に総務に異動することになってしまうのです。

 このことに関する、アルマダ社長のローズの言葉、ちょっと長いけど引用させてもらいます。

「ジョブローテ、と言えば聞こえはいいが要は不毛なスクラップ&ビルドだ。社員の専門性に価値を認めずズブの素人で代替可能だと思っている。同じ金を払う客にしてみれば随分と馬鹿にした話だ。力のあるエンジニアを買ったつもりが、途中で派遣社員や新人に切り替わるのだからな。羊頭狗肉、詐欺の類いと罵られても仕方がない」
 ローズの口調が硬くなった。
「この国のIT産業はいつもこうだ。どこのSIerも『高い技術力』『高度な専門性』を謳っている。だがその内実はどうだ? 優秀な人材ほどすぐ現場から引き抜かれ、お門違いのマネージメントや戦略策定のポジションにつけられる。かわりに残されるのは二線級のメンバーだ。なぁ桜坂君、一体なぜこんなことが起こる? どうして技術の追求を謳う企業がこんな行動を繰り返しているんだ?」
 なぜ。
 どうして。
 悩んだ末に首をひねる。
「分かりません……」
「簡単だよ。IT系のスキルが重要なんて誰も本気で思っちゃいないからだ」

(p.188)

 ちなみに、詐欺という言葉は貝塚さんとの話の中での工兵の言葉にも出てきます。
 ローズはこの現状について、製造業の成功体験を理由として挙げています。まあ確かに、カイゼンは間違いなく改善であるけれども、部分最適は効率化の敵ですしね。
 こういう話についてはこれまでも散々書いてきたし、ちょっと前に変なこと書いて触れてもいますが、本当に先が思いやられます。はっきり言って、苦手なものはいくらやっても得意にはならない。人とはそういうものだと思います。

 この、「SE」という仕事に価値を置いているように思える作品は、これまで様々なスキルを身に付けてきた主人公・工兵を、どんなことでもできる超人にすることを選びませんでした。冒頭に一線と書きましたが、そこだけは譲れないものだったのだろうし、譲らなくて良かったとも思います。私としても、工兵がどんどん登り詰めていくことに、少し裏腹な懸念も抱いていました。
 7巻の答えをここで出すことも、工兵の異動がここで出てくることも、多分一つのことに向かっての展開だったのでしょう。

 というわけでもうネタバレしちゃったようなものですが、工兵は総務には行きません。ただ、それをどのようにやってのけたのかについては、さすがに感想に書く必然性もないでしょうし、内緒にしておきます(笑)。
 工兵がずっと「SE」であるかはわかりませんが、少なくとも彼なりの「一線」は定まっていると思います。
 そういうものを持つ、自分の一線がどこにあるかを知ることは、重要だと思うのです。

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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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