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読んだ: 『イノベーションはなぜ途絶えたか』感想

 日本の経済を支える力について、絶望と希望と絶望に襲われる本ですね。


 いつも言っていることをちょっと違った言い回しで表現すれば、日本は頭から腐っているとでもいう感じになりますか。この本を読むと、本当にそうだなというのが実データを元にして突きつけられる気分です。
 しかし、このような分析ができる人がいるという、またこのような本が登場したという希望もあります。
 が、ここに書かれているようなことや姿勢が広く理解されることは多分ないだろうという暗澹たる気持ちもまたやってきます。

 この本にはまた内容の他にも興味深いことがあって、イノベーションについてここに書かれているような現状があってそれについてこのような対策を打てば……というレイヤーの上に二重構造のように、この本自体が一つの社会的なイノベーションであるという風にも感じられます。
 尤も、そのようであることそのものが現状に潜む問題点であるとも言えますけど。

 さて、序章に各章の概要とともに全体の構成が書いてありますが、私なりの解釈でちょっと別の表現をしてみることにします。
 その序章はまず問題提起で、現代の日本の状況と、それに対する危機感から著者がどんなことを始めたかという話。
 第一章は、シャープを例にとって日本の凋落がどのように進んだかを示しています。確かに、あの会社の歴史は日本の近代を体現しているかのようでもあります。
 第二章は、では一体どのようなところが悪いのかという話。アメリカで80年代初頭に始まったSBIR(スモール・ビジネス・イノベーション開発法)とSBIRプログラムがいかにアメリカのサイエンス型産業を変えたか、そしてそれをマネた日本の制度がいかに有害無益だったかを例に取ることで、つまり表面上同じような制度の筈なのにどうしてそんなに違うのかを比較することで、日本の社会に根を張る問題点をあぶり出します。
 第三章では、ではイノベーションとはどんなものでどのように生まれるものなのかということに視点が移りますが、ここでも上記のような二重構造が見えるような気がします。なぜイノベーションを起こせなくなっているのか、そしてなぜそのような状況になるのか。相似形の構造が見えるように思えるのは気のせいでしょうか。
 第四章では、一般論としてのイノベーションとな何かという話とは別に、特に現代の日本において強く影響している、固有の問題と言っても過言でないいわば追加で考慮しなければいけないことが書いてあります。つまり、現代社会では益々重要になってきている様々な技術が自然科学に依拠していること、然るに日本ではむしろそれがあまり顧られなくなってきていること。
 第五章にあるのは、著者による「対策」です。そして併せて、科学というものの役割、意味、認識、そういったものに対する、提案というには切望のようにも見える提言も。

 第二章に出てくるアメリカのSBIRは、さすがに一つの章に押し込めただけあって概要しか書いてありませんが、その出発点と効果を見るに、極めて緻密で周到な制度であるように思われます。現状(70年代当時)の分析、問題点の見極め、対策の網羅性。まあ平たく言うと、何が問題でどのようにすればどのようになって改善されるのかを全部ちゃんと考えていた、ということですね。
 この本そのものがイノベーティブであるというように前述しましたが、やはり来歴の通りというべきか、著者は様々なことについてきちんと「分析」をしています。なんとなくふわっと出した印象を元に話を作り上げているわけではない。例えば、第二章に出てくる「分野知図」など実に興味深い。

 著者のアタマの中がどのようになっているか類推させてくれるものが、そのような姿勢以外にもいくつかあります。
 例えば、第三章でイノベーションの仕組みについて述べる際に説明のために掲載している図、「イノベーション・ダイヤグラム」。p109にある二次元の図3-2だけでもまあいいのですが、後にそれが図3-3(p130)として三次元になって再登場します。
 何がいいたいのかというと、物事の構造をイメージするやり方がそれで見えてくるのですが、まあここで私見(いやここで書いているのは感想なので全部私見とも言えますが)を述べれば、こういう表現ができることは重要だと思います。元IT屋としては。

 とまあそんな印象を受けながら読んでたので、読みながらかなり色んなところに思考が飛びました。なので、ちょっと読んでは本を閉じてしばらく考えたりメモを取ったり。メモしてなかったことは結構忘れちゃいましたけど(笑)。
 その例を書いておくと、例えばp107の図3-1。「開発(演繹) - 科学」のところは何で×なのかな、とか。なんとなーくなんですけど、「夜の科学」で起きている「回遊」はそれを起こしていないのかな、ということですけど。
 まあ、その色々についてはその内まとめるかも知れません。まとめないかも知れませんが(笑)。

 結局この本で著者が出した結論と提言がどのようなものなのかというと、言葉にするとさほど珍しいものではありません。つまり、現代は「知」の時代なのだからそれは重要なのだし、ならば科学以外も含め様々な「知」が結び付くようにすべきであるし評価できる人も必要だということになります。
 ただ、むしろそこに至るまでの過程を辿ることはその結論を単に知ることと大きく違い、より重要なのだと思います。アメリカのSBIRと日本の「もどき」が別物であるのと同じように。
 こういう構造の本が人々に読まれることは、この本で示している提言の実現のための一つの力になるような気がします。前述の二重構造です。
 そういう意味でも、やはり興味深い存在だなと思います。

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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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