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ラノベ: 『ソードアート・オンライン プログレッシブ003』感想

 アニメ『ソードアート・オンラインII』の進行に合わせてなのか、『ソードアート・オンライン プログレッシブ003』が出たので感想です。

ソードアート・オンライン プログレッシブ (3) (電撃文庫)
川原 礫
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014-12-10)
売り上げランキング: 39

 簡潔に表現すると、

二人の共同作業船出指輪の交換

が印象的な話でした。
 ただ残念ながら、いずれも文字通りの意味、なんですけどね(笑)。指輪は、交換ですらないかも。

 今回は、プログレッシブ002とは打って変わって穏やかな話でした。穏やかとは言え、それなりに冒険はあったわけですけど、じゃあどこが違うかというと、政治的な、もしくは陰謀みたいな不穏で人間の嫌らしさっぽい話が殆んどなかった点です。
 そもそも、全編を通じて、ほぼキリトとアスナの二人きりですからね。
 いや勿論、登場人物はそれなりにいるのですが、あくまでもテーマとして描かれたのは二人の関係、という感じ。
 まったく、リア充爆発しろ、という二人なんですが、果たしてSAOの中をリアルと言っていいものかどうか。

 そんな003は、第四層の攻略です。三層のボスを倒した後、四層入り口の扉のレリーフがベータのときと違う、という所から始まり、四層のボスを倒すところで終わります。
 ベータテストの時には乾ききった峡谷、みたいな雰囲気だった四層ですが、今回入ってみると、水だらけになっていました。というわけで主街区に辿り着いたときのアスナの感想は「すてき、ヴェネツィアみたい!」でした。そういう事情もあり、所謂「水着回」、いや「水着巻」?でもあります。
 そんな感じの、これまで描かれたことのなかった水の上での戦闘など様々に展開する冒険……についてはばっさりと切り捨て、キリトとアスナの関係、特にアスナの変化についてコメントしてみたいと思います。

 この「プログレッシブ」というシリーズは、キリトのこんなモノローグから始まっています。

 一度だけ、本物の流れ星を見たことがある。

 この回想の意味するところは多分、それが象徴しているところのアスナ、キリトにとっての希望の星、そんな存在を追う物語であるという宣言なのだと思います。
 そのアスナですが、もうキリトと出会った頃とはまるで別人のようです。今回特に、「ヴェネツィアみたい」な街が舞台でゴンドラでの移動などもあり、目をキラキラさせるアスナは大変微笑ましい。p53やp146のイラストのアスナなんて……(言葉にできない(笑))。
 まあ、そんな風に目を輝かせるアスナはこれまでにも描かれましたが。おいしいパンやお風呂で。

 しかし考えてみるとこういうアスナは、SAOに来る前に存在したのでしょうか。プログレッシブシリーズや「マザーズ・ロザリオ」編で描かれた、この頃より前の現実のアスナは、こんな面を持っていたようにあまり思えないのですが。
 しかも、今回アスナは、自分の現実でのクリスマスがどんなだったかをこう表現していました。

「家族でクリスマス・パーティーをするから家にいなさいって言われて、でも結局父親も母親も遅くまで帰ってこなくて、ひとりでケーキ食べて終わり……毎年そんな感じかな」

p294

 してみると、今のアスナは、キリトが守り育ててきたから花咲いた姿、ということなのではないでしょうか。

 このシリーズでは本当に、キリトはいつもアスナを気遣い、アスナを基準にしています。
 例えばこの巻では、アスナが≪カレス・オーの水晶瓶≫という激烈に需要のありそうなアイテムを持っていることを、「アスナの安全を第一に考えたい」と言って伏せようとします。また、こんなことを考えたりもしています。

 ならば、せめてこの層にいるあいだくらいは、恐ろしいことや悲しいことを彼女の周囲から少しでも遠ざけておきたい。

p170

 アスナの他者からの評価にも常に気を配っていますし。
 そして、このような守るという観点からだけでなく、育てることについても。
 現状アインクラッドでは、二大ギルドが競っていて、それで攻略の進展も速いということがありますが、やはりそのような対立構造だけでは何かあったときに危険である、とキリトは見ています。
 そして、そこに必要と思える第三の勢力、それを率いることができる攻略集団全体の要石となれる唯一の者、それがアスナであろうとも。

 アスナは、確かにまだまだキリトの庇護を必要としているようです。例えば、あるクエストの途中でこんな会話がありました。

「疲れたの?」
「い……いや、俺は大丈夫だけど……そっちは?」
「わたしも平気。昨日は、いつもよりしっかり寝られたから」
 ──そうだったかな、と内心で首を傾げる。

p193

 これは、まあ100%そのまま受け止めていいのかというのもありますが、そのいつもよりしっかり寝られたという昨日は、キリトがずっと側にいたわけです。
 また逆に、こんなシーンもありました。

「…………眠れないのか?」
 しばらくしてから、ようやく小さな頭がこくりと動いた。更に数秒の沈黙を経て、ぽつりと声が発せられる。
「……お部屋も、ベッドも、なんだか広すぎて……」

p298

 こちらにも、眠れなくなってしまう理由というのは確かにあるのですが、このとき二人は、隣とは言え別の部屋にいたのです。

 キリトは、上記のようにアスナを攻略集団全体の要石足り得る存在と見ていますが、そこにはやはり当然、戦闘の実力というものも含まれています。そして彼は、以前からアスナのそういった意味での実力を高く評価していたとは言え、それでも今、過小評価していたと考えています。
 しかしそれは、彼が、それこそ身命を賭してアスナを育ててきたからであると言えるでしょう。アスナの予想外の成長をもたらした想定外の要素が実は自分自身であった、ということですね。
 でも、そこはやはりキリトはキリトだと言うべきか(笑)、アスナの剣や攻略の技量には期待以上の伸びがあっても、その心の安定を、ゲーム攻略のやり方を教えるようにはもたらせていない。
 多分それは、キリトが「アスナにとってのキリト」の価値を、現在進行形で過小評価していることが最も大きな原因でしょう。

 こんな一幕がありました。

「VRMMOだと、緊張感倍増だよな……。アスナがあの布の特殊能力に気付かなかったら、絶対見つかってたよ」
 何げなく付け加えた言葉だったが、細剣使いはぱちぱちと瞬きを繰り返すと、なにやら複雑な表情を作って言った。

p187

 また、こんなやり取りも。

 やがて投げかけられた問いは、ある意味では、アスナが考えないようにしていると言っていた≪未来≫にまつわるものだった。
「……ねえ。あなたは、いつまで、わたしと一緒にいるの?」
「…………」
 瞬きひとつしないヘイゼルブラウンの瞳をしばらく覗き込んでから、俺は答えた。
「君が充分に強くなって、俺が必要なくなる時まで」
「…………ふうん」

p371

 実はこの時アスナは微笑みを返しているのですが、果たして彼女はキリトの言葉の意味をきちんと読み切れていたのかどうか。
 彼は上記のように、アスナの強さを高く評価していますし、加えて、彼女を第三の勢力の、いや攻略集団全体の中心の候補と目したとき、自分が一緒にいることが阻害要因になるのではないかと考えています(pp222-223)。

 この齟齬は、果たして軽く見逃していいものなのか。齟齬とはつまり、キリトの言うアスナの「強さ」は、アスナの思う自身の「強さ」と一致しているのか、ということです。
 彼等の今後については、既に描かれています。アスナはキリトと一旦袂を分かち、血盟騎士団に入団します。しかしそこでのアスナは、「マザーズ・ロザリオ」編等で思い返しているように、決して満ち足りていたようには思えません。
 アスナがキリトの庇護下から独り立ちしたとき、アスナは充分に「強く」なっていたのか。
 やがて彼女を見送ることになるキリトが、今、アスナの「強さ」を上記のように評価していることは、一つの示唆であると見て良いでしょう。

おまけ1:
 アスナもだいぶ、それこそ001の頃から意識し始めた「本物」とは何かという問いの答えに近づいているようです。
 レストランで料理をシェアしたことについて語った(p175)時とか。
 それにしても、SAOの中では「3秒ルール」が現実のものとなっているんですね(笑)。

おまけ2:
 p233で触れられた「武器修理の看板を出している新人鍛冶屋の女の子」って、勿論あの人ですよね!

tag : 電撃文庫 川原礫

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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

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