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読んだ: 『楽園追放 -Expelled from Paradise-』感想(ネタバレあり)

 読んでから見るか、見てから読むか。というわけで、まず読んでみました。

楽園追放―Expelled from Paradise― (ハヤカワ文庫JA)
八杉 将司
早川書房
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 さて、本作はハヤカワ文庫JAなんですが、私の感覚ではラノベです。なので、いつもならカテゴリは強引にラノベにしてしまいますが、しかしそうしていません。これは、感想の書き方の姿勢がラノベ感想のときとちょっと違うからです。
 ……ややこしい。しかも根拠が不明瞭(笑)。
 あと、デフォルトでネタバレありのこのブログですが、こういう作品のときは先に宣言しています。しかし今回はラストまでの強烈なネタバレは必要ないので、ネタバレ「あり」という表現にしました。

 というどうでもいいことを書いてネタバレまでのクッションに、と(笑)。

 本作は、同名のアニメ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』のノベライズということになっています。
 主要な登場人物は、まずは主人公のアンジェラ・バルザック。そして、ディーヴァの偉い人たち、ディンゴ、それからフロンティアセッター。
 ……ごめんね、クリスティンその他。

 舞台は、西暦2400年頃?の地球(付近)。自然環境を整えてくれる筈だったナノマシンの暴走で激変してしまった地球から逃れるため、人類の多くは精神を電子化し、情報生命体となってディーヴァと称するつまりは電脳世界に住んでいます。
 近頃そのディーヴァに、巧妙なクラッキングを仕掛けてくる者がいます。そいつの名はフロンティアセッター。極めて厳重な筈のディーヴァのセキュリティを掻い潜り、ディーヴァに住む人たちに怪しげなメッセージを伝えてきます。
 ディーヴァの偉い人たちは脅威を感じ、アンジェラらディーヴァのシステム保安要員に、地球、リアルワールドへ赴くように命じるのです。
 任務のために肉体(マテリアルボディ)を用意し、降りた地球(ディーヴァは衛星軌道上にある)で現地の協力者となったのがディンゴです。

 調査をしてみれば、実はフロンティアセッターはなんと、人間ではありませんでした。大昔の、当時はまだ人々が普通に地上にいた頃のロケット開発者達が使っていたAIが、自律的に動くように自らを改良した結果誕生したものでした。

 ここに、アンジェラの周囲を、ディーヴァを象徴する電子化された人々、昔と同じように地上に住む人類の一人のディンゴ、そしてAIのフロンティアセッターが取りまくことになります。ディーヴァの偉い人については特に個体識別しない方が「らしい」と思ったので、先ほどからこのように表記しています。

 フロンティアセッターは、ディンゴと昔の音楽の話をしたり、AIですが極めて我々の感覚では人間的な存在として描かれています。なおかつ、その存在の根本はやはり、出発点から逸れることなくAIです。
 そしてディーヴァの面々は、その対照というか対称というか、みたいな存在になっています。
 旧来の人間のディンゴも合わせ、アンジェラは自分の生き方を、これらのモデルケースを参考に選ぶことになります。

 さて。
 ここまで説明しておきながらアレですが、その選択肢、設定についてはかなり詰めが甘いところがあると思います。何となれば、条件が対等でないというか、並記できる状態でないからです。
 色々な事情もありますが、アンジェラはディーヴァとは袂を分かつことになります。それは、ディンゴによる指摘が大きいのですが、ディーヴァでは結局、メモリや演算処理能力といった限られたリソースの奪い合いに終始することになり、つまりはゼロサムの陣取り合戦のような生き方しかできず、それは結局不自由なのではないか、と思うようになるからです。

 これは果たして、リアルワールドと比較できる状況にあると言えるのでしょうか?

 今のディーヴァはリアルワールドで言ってみれば、原始的な農業が誕生して穀物による備蓄が可能になった、しかし充分な収穫がない、そんな頃と同じようなものではないでしょうか。
 それまでの地球では、実は人々はあまり飢えていなかったらしいですね。争いもそうなかった。
 農耕が始まったことにより、「食える」人が増え、しかし備蓄が可能になったことで富の偏りも生まれた。
 それがまだ充分にない時、今のディーヴァのような社会になるのではないでしょうか。

 この時代のリアルワールドは実は、意外と困窮していないようです。そもそもそんなに多くの人を支えきれないため、農耕前の実は極めて自由度の高い時代のような段階なのかも知れません。
 つまりある意味、リアルワールドとディーヴァの比較はアンフェアであると言えます。
 当然ながら、作品世界を現実とするアンジェラにはアンフェアな選択肢から選ぶしか手がありません。ですが、そういう状況を設定する側の、言い換えれば『楽園追放』という作品が問いかけるものは?というメタなレイヤーに視点を移すと、読者の我々としては設問自体に問題があるように思えます。

 というわけで、色々考えさせる作品ではありますが、材料がちょっと不揃いで今一つかな、という感じです。
[追記:2014-12-04]
 ではどうすべきだったか。
 まずは、人の能力そのものが私有財産と同じ位置づけになっていることを強調すべきだったんではないでしょうか。足りないことを印象づけるよりも。ただ、リソースが充分にあったら色々切り捨てる必要もなかったので、あまり切迫してこなくなるかな。要は、何を強調するかということですね。
[追記終わり]

 さて、こうして本作ノベライズ版を読んだわけですが、ではどうしましょうか。つまり、読んでから「見るか」です。
 作中でディンゴ達がA-RISE……じゃなくALISEの音楽を楽しむシーンが沢山ありますが、そういう意味で映像と音声を楽しむことも重要かも知れませんね。
 また、ノベライズ版では省略されたところもあるかも知れませんし。

 あと、最後におまけ。
 これはやはり虚淵色なのか、アンジェラがリアルワールドを評するときの表現がなんとなくそう思わせました。

「ディーヴァではメモリがあれば何でもできる。だからそのメモリを確保するのに無駄と判断したものはすべて捨ててきたのよ。ロックや宇宙開発、未知なるものを探求する心まで。リアルワールドを見なさいよ。このめちゃくちゃな場所、でたらめな人間たち。ディーヴァにはないわ。必要ないもの。だけど、それがどういうことを引き起こしているかわかる? 多様性の欠如よ。余裕を失った、融通の利かない世界になってしまっている。それが招く最期は……そのくらいあんたにもわかるでしょ」

tag : ハヤカワ文庫JA 八杉将司

コメント

非公開コメント

No title

あとで感想を追記するとか言っていたら、先を越されたの巻。
映画館だけで見た記憶だとあやふやになると思ってノベライズを購入しようと思ったらアマゾンでは売り切れとか。人気すぎやしませんかねぇ……。

>ではどうしましょうか。つまり、読んでから「見るか」です。
まぁ先に観たものとしてはオススメしたい気持ちはありますが、押し付けは宜しくないのでご随意に……とだけ。
敢えていうなら、フロンティアセンターに萌えられる、という点でしょうか?
え、アンジェラ? 彼女は萌えるというよりエr燃える方ですから(震え

Re: No title

> あとで感想を追記するとか言っていた
あ、そうだったんですかー(惚

> 人気すぎやしませんかねぇ……。
意外と売れているようですね。まあ、特定の層には強く訴求しそうな気がします。

> フロンティアセンターに萌えられる
AIに萌えるのはSFの基本ですよね(笑)。

> え、アンジェラ?
アンジェラのマテリアルボディがあの年齢設定になった経緯が結構笑えました。
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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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