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読んだ: 『ファンタジスタドール イヴ』感想

 本屋のハヤカワ文庫の棚で、何やら柔らかいタイトルの本を見掛けました。

ファンタジスタドール イヴ (ハヤカワ文庫JA)ファンタジスタドール イヴ (ハヤカワ文庫JA)
(2013/09/20)
野崎まど

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 ……は? 『ファンタジスタドール』って、アレ? アニメ見ましたけど、ハヤカワ文庫で扱うようなものじゃ……でも最近はハヤカワも野尻抱介がラノベのレーベルで出した作品を巻き取ったりしてますけど……でもいくらなんでも柔らか過ぎじゃ……でも『ファンタジスタドール』って偶然一致するようなタイトルに思えないし……。
 しかし、帯を見るとしっかりと「アニメ「ファンタジスタドール」前日譚」と書いてあります。

 まあ、巻末の解説を見ると大体事情がわかります。解説は、そもそもこの『ファンタジスタドール』というプロジェクトを企画した谷口悟朗氏によるもので、タイトルも「陰としてのファンタジスタ」となっています。
 平たく言うと、つい設定に凝ってしまうのでアニメの監督はせず、でもそういうところも形にしたいなということで、どうせならとこういう形態での発表になったようです。つまり、早川書房で野崎まどでみたいな。

 そんなわけでなのか、この『イヴ』という作品もあまりストーリーそのものにはそう目立つところもありません。描かれているのは、ファンタジスタドールを存在せしめるための原理のサイエンティフィックな部分、その技術がやがて彼女達を産み出すことになる理由、そしてそれを成し遂げた主要人物、大兄、遠智、そして中砥の三人の関係です。
 笠野という大兄の大学時代の同期生も重要人物ですが、彼は言わば、大兄や遠智とは違う、普通の世界の住人です。まあその意味では中砥もそうなんですが、中砥は女性であるという一点で、物語の中心に食い込んでしまいます。

 物語とは言っても前述のようにあまりストーリーはなく、大兄が自分の子供時代からのことを淡々と一人称で述べる形式になっています。
 始まりは、彼が幼い頃、ミロのヴィーナス像、もっと言えばその乳房に魅入られてしまうこと。それが始まり、なのかきっかけなのか、ともかく、彼が本質的に希求するものがここで定まっています。
 またそれとは別に、彼がサイエンスに傾倒するきっかけもその数年後にありました。

 彼は女性、特にその身体に惹き付けられていつつ、しかしいくつかの出来事のためにそれを押し殺しているわけです。
 もう一方のサイエンスについては、大学の研究室で、後輩の中砥とともにとある着想を得て、そこから発展させた仮説から大規模な研究が始まります。
 そこに現れたのが遠智です。彼は極めて優秀な頭脳の持ち主で、大兄は彼と話して、それまで自分が能力を抑えていたことに初めて気づいたくらいです。

 そんな彼らには、女性に対する共通点がありました。しかしそれを細かく説明することにあまり意味はないでしょう。理由は後述。
 ともあれ、色々な事件や事故の末、大兄と遠智は研究チームを離れ、川越にある別の組織に移ることになります。その時にはもう、その技術で何を作るのかが定まっていました。

 この回想の物語で大兄は自身を、人から離れてしまった存在と規定しています。どこか異常なのだと。
 ところで、実はこの本の形式は、本文はこれまで述べてきた通りなのですが、実際には冒頭の「はしがき」と最後の「あとがき」が別の人物の手になるものです。つまり、あとがきも作品の一部。
 その「あとがき」には、本文の最後よりも後のことが描かれていますが、そこに、多分中砥であると思われる人物が登場し、大兄、と思われる人物のことをあとがきの筆者に向けてこう評します。

(略)でも、この人は、普通の人でした。人並みに女性が好きで、人並みに嫌いな、……ただそれだけの、普通の人だったんですよ」


 中砥は前述のように、その性別から大兄や遠智の世界に食い込んできていましたが、しかしやはり、普通に人と付き合い普通に生きる普通の世界の人でした。
 普通に男も知っているし、だから、大兄が自分のことを、異常で人としてどこかおかしい存在と思っていたとしても、いやでもみんなそんなもんでしょ、とわかってしまっているのかも知れません。
 これが、上で説明を省略した理由です。

 大兄が女性の身体、例えば乳房について、何故その形なのか、などと考えるシーンがありました。何故なのかそれが窮極なのだと。
 しかし言ってみれば、それが窮極なのは自分の中にそのような基準がビルトインされているからであり、それが男というものなのだ。そう思い至るべきだったのです。
 そして、中砥(と思われる人物)による述懐は、それを客観視できる立場からの直観的な洞察であると言えます。

 『ファンタジスタドール』という作品世界のサイエンティフィックな意味での基本設定についても、男性と女性の奇数と偶数へのマッピングという何やら古典的な表現がまず登場し、ある次元に下から干渉するには一つではなく二つ下の次元が良い、つまり奇数同士偶数同士が良いという話に展開し、それがあの「カード」という二次元の形態の根拠ということになったものとしているようです。
 その他、物質そのものの操作に関する様々な常識を超越した技術の根拠が描かれています。

 こんなようなところから、「ファンタジスタドール」を具現化する技術、何故それが「ファンタジスタドール」なのか、そしてそもそも「ファンタジスタドール」が生まれた理由、などが導かれます。
 それは何やら、アニメ作品のあのきらきらと華やかな世界とはまるで掛け離れたもので、まさに解説にある「陰の側面、闇の部分」と言えるでしょう。

 表紙にも本文にもあの可愛らしいドールを描いたイラストはなし。
 大兄達がどうなったかは描かれず、巻末には15ページにも及ぶ年表が掲載され、何だか、先日紹介した小説版『ゼビウス』と似たような雰囲気も感じられます。
 やはり、成り立ちが似ていると到達点も似通ってくるのでしょうか。

tag : ハヤカワ文庫JA 野崎まど

コメント

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No title

二期はいつになったら始まるんですかねぇ……(´・ω・`)

Re: No title

> 二期
と称して始まったのがこれのアニメ化だったらどうします(笑)?
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Author:水響俊二
水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

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