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ラノベ: 『なれる!SE9 ラクして儲かる?サービス開発』感想

 工兵の超人度がハイパーインフレを起こしている(笑)!
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(2013/05/10)
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 そのせいなのか、工兵の戦術、言い換えれば物語のどんでん返し部分も大分変わってきましたね。今までは何と言うか、球威のある大リーグボール3号、みたいな感じだったんですけど、あくまでド直球!みたいな感じに。
 また、仕事の進め方の上でも、立華とかの専門家に対して、頼るというよりも協力を求める、みたいな感じになってきています。やはり、前巻の感想で書きましたが、ライバル登場ということは工兵も主人公として一人前になった、という感じでしょうか。

 今回はどういう話かというと、前巻までに起きたことでスルガシステムはかなりの苦境に陥ってしまっているために、社長がひとつぶちあげます。

「工数をいくら売り上げても人数以上の稼ぎは出ん。であれば今までの人件費ビジネスは継続しつつ新たな収益源を作り会社の柱にしていくべきだ。具体的には月額課金モデルの導入、レディ・メイドのプロダクト開発と拡販、ニーズではなくシーズの追求」

 立華と梢の説明を聞いての工兵の理解を引用すると、こうなります。

 つまりこういうことか。個別SIはお客さんの要望を受けて作り出すオートクチュール。対してサービスは単一の型をもとに量産されるプレタポルテ。社長の言葉を借りるなら、オーダーメイド偏重のビジネスを見直しレディメイドの商品を生み出す。まさにビジネスモデルの転換だった。

 アクションを起こす方向が引っくり返るわけですから、本質的な意味でビジネスモデルの転換ですね。

 そんな会社の在り方そのものに関わるようなことを、どうして新人の工兵がやることになるのかな、とまあいつもの展開に持っていく作者さんの手腕を期待を込めて読んでいたら、相変わらずのキレの良さ。
 社長は最初、その新事業、新サービスの責任者の立候補を募ったのですが、そんな人が現れることもなく、しびれを切らした社長がなんと、他薦に切り替えた(笑)のです。
 そこで一体何が起きたか。立華と梢はさすがライバル、同じ行動に出ました。つまり、立華は梢を、梢は立華を推薦するよう周囲の人を巻き込んでの選挙戦(笑)を繰り広げることに。選挙と違うのは、相手を当選させようとするところですね。
 で、結局二人に同数の票が集まった上にその行動が互いに知られることとなり、格ゲー状態(笑)になるんですけど(工兵の比喩によればサムスピの覇王丸とか斬紅郎、決してナコルルではない(笑))、見かねた社長が工兵を間に立たせ、プロダクトマネージャに任命されてしまうわけです。
 お見事ですね〜。

 どんな新サービスを考え出すことになるのかというと、とある顧客の苦境からSD部のアドバイスも受けて発案したIPv4/v6の変換装置[トランスレータ]。これでSE部の立華、OS部の梢、SD部の福大と、これまで出てきたスルガシステムの強豪が勢ぞろいしたことになります。
 この感想何度言ったかわかりませんが、工兵ってほんとに「SE」なんかな。このシリーズ、本当にこのタイトル、つまり『なれる!SE』でいいんでしょうかね(笑)?

 色々やっかいな問題を、福大の技術もあって克服してできあがった、仮称SRG46。「エスアールジー・フォーティーシックス」、スルガシステムのIPv4/v6変換サービスだから(笑)。

 で、好調に発進したように見えたSRG46ですが、やはり色々困ったことになるのはいつもの展開。開始当初に梢が確認していたこと、つまり、サービスのグランドデザイン、機能の取捨選択をしっかり考えてイレギュラー構成が出ないようにと念を押していたのですが、それがこれまたいつものようにポイント。あっと言う間にイレギュラー構成だらけに。七顧客中六顧客がイレギュラー構成、というかそれって全部違うってことでは(笑)?
 というわけで困った工兵が導入するのが、ベンダーを巻き込んだ、つまりは代理店制度。

 これもまた以前指摘しましたが、このシリーズ、物語の構成が定型的で実にわかりやすいですね。これはそのときにも併せて指摘しましたが、構造的に同じであっても飽きさせない。そこでの表現を使えば、プロトコルは定まっているが流れるデータは斬新、みたいな感じ。
 今回は何が起きたかというと、順調に見えてトラブル発生、でなんとかそれを回避したところで本当のトラブル発生。
 つまり、パクられてしまったわけです。

 そのパクりをやったところが、普通の人から見るとブラックに見えるかも知れませんが実に真っ当な会社であるスルガシステムに勤める工兵には予想もできないようなことをやらかします。
 つまり、SRG46と同じようなのをもっと安く提供できます、と売り込むわけですが、そんな早く同じものを開発できるのかと疑問を持ったら、実は、できてなくてもとりあえず売り込んでそれから後でなんとかするわけです、彼ら。

 さて、冒頭で「ド直球」であると感想を述べた今回の話。
 そういう意味では前述したプロトコルに変更があったと言えるかも知れません。が、これはつまり、工兵が主人公として一人前になったということと関係があるかも。
 どういうところがド直球なのかというと、工兵がそのパクりに対して取った行動が、コピー商品を潰すために、相手に真似のできないこと、つまりは「実績」を勝ち取ることで、しかも、最後までそれで通すからです。パクった相手へのちょっとした意趣返しもありますが、それは工兵の知らないところで行われていましたし。

 というわけで工兵は社長に直談判し、社長の人脈から「一番重要[クリティカル]な」ユーザを紹介してくれ、とやるのです。

「わずかな断や失敗も致命傷になりかねないクライアント、一度のトラブルが契約打ち切りに繋がるような、いえもっと言えばうちの信用を業界全体で損ないかねない、そんなユーザーを紹介いただきたいんです」


 元々今回は、スルガシステムの背水の陣。ならばと社運を賭けた行動に出るわけです。新人が!
 後がないというのは確かにありますが、自らが指揮して開発したSRG46とスタッフの技術・運用に対する自信、信頼、そして自負があって初めてできることであり、この巻はもうこれを描けたら目的は果たせたんじゃないかと思えるくらいです。
 社長のところへ向かう前の工兵のモノローグより。

 諦める……。
 魅惑的な誘いは、だがどういうわけか心を動かさなかった。
 胸の奥に強烈な反発心がある。……ふざけるな、こんなところで投げ出せるか。SRG46は僕の作ったサービスだぞ。得体のしれない人売り会社にスペックを盗まれてむざむざ引き下がれるか。せめて一矢報いないと次の仕事にも取りかかれない。

 それを見送るカモメさんの、「がんばれ、男の子」という一言が印象的です。

 実を言うとここを読んでいて最初、その「一番クリティカルなユーザ」に相手を誘い込んで自滅させるのか、とか思いました。しかし、そんなことをしてもまたでてきたときにほいほいクリティカルなユーザを用意できるわけもなく、きりがない。それに、いかにも後ろ向きです。
 そういう意味で、工兵のこの行動は、まさに主人公らしい正攻法と言えます。

 ……まあ、若手新人らしい無謀さとも言えますが(笑)。

 しかし実際のところ、工兵だったらこの後年長者になっても、今度はこれらの実績に裏打ちされたものを元に、同じようにやって行くかも知れません。

 で、紹介されたのが、まさかの中央官庁、総務省
 勿論、システム自体は全くの架空のものです。まあ、ここで役所の方を架空にしてしまったら物語としてインパクトに欠けるものになってしまうので、適切な設定ですね。
 で、いつもならここで発生するトラブルの解決は(トラブル自体は定型的に発生する(笑))、かなり強引ではありますが、大局を見ればという意味では妥当と言える気がします。
 ここのところが、シリーズのこれまでとはちょっと違うように思います。つまり、同じレイヤーで別の方向から手を回すやり方から、俯瞰するやり方に変わっているような印象です。表面的には純粋に技術的な解決ですが、それをやるかやらないかというところにはそれ以上の判断があります。
 やはり、前巻辺りが分水嶺だったのでしょうか?

 ここでもう一つ触れておくべきことがあります。事態の解決を見たときの、立華と梢のやり取りに対して工兵が感じたことです。

 瞬間通い合った二人の絆に鳥肌が立つ。ああ……くそ、畜生格好いいな。互いが互いの実力を認め合い真剣勝負で議論を交わす。まさしくプロの姿勢だ。甘えも妥協も一切ない、職人同士の対話。

 このシリーズはIT業界で人気があるようです。それについては、業界のブラックさがリアルに描かれているという自虐的な魅力という面が確かにあると思いますが、それだけではこれだけ続くシリーズになるとは考えられません。
 やはり、ここで工兵がこのように感じる、そういう描写があるからこそ、なのではないでしょうか。
 クライマックスシーンでの技術用語の氾濫も、読者が工兵の感動に共感できるようにするための素材として、二人のやり取りの前に置かれたものなのかも知れません。現実らしさの演出、という意味で。

 というわけで、いつものようにちょっとしたトラブルがオチを付けるというのはありますが、いつものように大団円。
 今回の話は、なんとなくですが、技術屋さんに人気の作品になりそうな気がするようなしないような?

tag : 電撃文庫 夏海公司

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水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

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