FC2ブログ

読んだ: 『メイド イン ジャパン 驕りの代償』感想(前編)

 先日紹介したNHKのドラマ『メイドインジャパン』の取材協力ジャーナリストの井上久男氏による、長年にわたる取材の結果をまとめたノンフィクションです。

メイド イン ジャパン 驕りの代償メイド イン ジャパン 驕りの代償
(2013/01/17)
井上 久男

商品詳細を見る

 ドラマとは対照的に、この本の内容には大変共感しました。
 と書きたいところですが実は順番が逆で、氏がインタビューなどで言っていたことに共感したから本を買ったというのが正しいです。ただ、実際に取材して得た情報に関しては勿論私が知らなかったことなので、新たに知ったという意味で実に参考になる部分がたくさんありました。

 構成について簡単にまとめると、まず最初の二章でパナソニックとシャープの惨状を伝え、次に日産の再生の様子とそこから得られる知見や教訓、続いて最近相次いで交代したソニー/パナソニック/シャープの社長について。
 そして、ここでちょっと話が一転して、エンジニアの流出の話。
 それから、トヨタの栄枯盛衰の話があって、最後の第七章で「日本企業の課題──失われた20年を取り戻せるか」と題して、これまでの話のまとめとそこから見えて来るものについて触れています。それに続くあとがきも重要です。

 で、前述のような取材に基づく様々な「現状」についてはともかく、そのまとめとして書かれていることを読んでいると、これまでここのブログで書いてきたことや、まだ書いてなくても思っていたことなどの多くがそこに絡まり繋がってくるようです。
 そして、それを取材の結果が補強してくれるような感じです。
 というわけで、各論に相当する部分についてはすっ飛ばして、最後の部分に着目して感想を述べたいと思います。まあ、本の解説ではなく感想なので(笑)。

 さて、ぶっちゃけてしまうと、帯にこう書いてあります。

経営者という人材の劣化が組織の中から異質な考えを排除することを招き、それが「新しい価値」の創出を阻み、「メイド イン ジャパン」の衰退を加速させているのである。(あとがきより)

 主張としては、いきなり結論ですね。まあ、帯ってのはそういうもんです。
 で、どこがどのように、ということについて縷縷語られているわけですが、私の視点でそこから問題点を抽出してみると、そこには「効率化」と「人の評価」の問題があると思います。

 まずは効率化について。
 以前にも、雑誌記事の感想本の感想で触れたソニーに象徴されるような、ダイエットの為にまず脳から削るような愚行がありますが、それについて端的に語っている部分がありました。

 日本の家電メーカーからヒット商品が出なくなったのも、いわば「日陰のアイデアや技術」が減ったからではないか。裾野が広ければその山は高い。アイデアや技術の「裾野」が狭くなったのだ。

p235


 新しいことがそこから生まれるというのもありますが、そこにある雑多なものを組み合わせることで何かができるということもありますし、何かを始めようとしたときに必要になるものが新たに作らなくともすでに手元にあるということもあるでしょう。
 将来のためのものという意味では、上記でダイエットの為に脳をと表現しましたが、どちらかというと生殖細胞の方が比喩としては適切かも知れません。

 必要なものだけ残して不要なものを削る。
 しかし、必要なものがわからないのが新技術であって、わかっているならそれは新しいものではない。
 このような、いいものだけ作ればいいんだよ、という考え方は他の分野でもあって、例えば文化のようなものでも同じことが起きていると思います。
 上で「裾野」という表現が出ていますが、これは適切ではあっても誤解も生みやすい言い回しかも知れません。つまり、「下」にあるというイメージから、価値の低いものという印象を与えるかも知れないからです。コンピュータの世界で言う「低レベル」と同じような感じで。

 こういう効率化の弊害は、その「効率」の基準としてコストしか想定していないからではないかと思います。よく言われることに反して、最近の日本では海外から何かを持ってくると必ず劣化しているような気がします。成果主義とかBYODとか。
 BYODでは殆んどの場合、どのくらいコスト削減になるかばかりが話題になり、成果について気にしていることがあるのかどうか。しかし、コストを考えればセキュリティなんぞ考える筈がありません。
 最近になってやっとスマホのOSのセキュリティについて話題になるようになりましたが、そんなことはPCのOSでやってきたことであり、且つ、PCのOSとの違い(制限)からよりセキュアな環境の構築が困難であることは大昔からわかっていました。
 そんなことも考慮せずににほいほい私物解禁とか言っているから問題視していたのですが、それも結局、技術に関する視点が欠如していたからで、問題としては同質ですね。

 次に人について。
 以下のような記述があります。

 リーダーには「起業家」「事業家」「経営者」の3タイプがある。これは決して言葉遊びではない。いずれも会社を起こせば社長や経営者と称されるが、求められる資質が違うという意味である。

p245

 ここで私は信長・秀吉・家康を想起しましたが、本の中でも直後にその例が出てきますし、実際日本人であれば誰もが同じことを思うのではないかと思います。
 しかし、殆んど共通認識とも言える、求められる資質の違いについて何故わざわざ解説しなければいけないのか。こういう疑問は過去に私も投げ掛けたことがありました。情報は重要だと言い、情報を重視した武将が活躍する話が大好きなくせに実際には情報を軽視する。高橋是清の時代と現代が似ていて是清は立派だったと賞賛しつつも、実際にやったことを参考にしようとはしない。その他。

 資質に関しては、以前こんなものを引用したことがありました。IT関連の技術者についてです。

この世界にはどういう訳か「つくる人」を下に見るとまでは言わないが、軽んじる雰囲気がある。「いつまでもプログラミングなどやっていないで、コンサルティングや設計やプロジェクトマネジメントができるようになれ」と言ったりする。下流工程という誤解を招く言い方もある。「下流工程は人件費の安い国に出せ」という危険な主張もある。

 何度か書いた話だが「彼は30代後半だからそろそろプロジェクトマネジャをやらせないといけない」といった恐ろしい人事も横行している。若い頃は「つくる人」でよいが、一定期間が経ったら「しきる人」になれと言う。しきる人は確かに必要だが「つくる人」より偉い訳ではないし何万人も必要ない。

 そして再三述べてきたことではありますが、人の評価を一次元にするなというのも同じです。
 しかしこれは、人を見るときに限った話ではありません。何でもそうです。違うはずのものを一つの同じ物差しで計ろうとするケースの多いこと。

 人と言えば、こういう記述もありました。インタビューの中で出てきた言葉です。

組織が新しいことに挑戦していくには、120点の人を何人か配置しないと突破できませんが、日本の経営者は80点くらいの人をたくさん集めたがる。

p159

 光電効果のようなものですね。「電子の放出は、ある一定以上大きな振動数の光でなければ起こらず、それ以下の振動数の光をいくら当てても電子は飛び出してこない。」みたいな。
 私の経験で言えば、ソフトウェアの開発とか。開発効率の違い、属人性は非常に大きいことが知られていますが、状況によってはそれは無限大にまでなります。そしてこれは、他の分野でも別に珍しいことではないでしょう。

 さて、この本を読んだ上で、「メイド イン ジャパン」の問題点として指摘されていたことから二つの視点を軸につらつらと述べてきました。
 これまでのは「受けた印象」を並べたという感じですが、それについてもう少し、「受けた」ものにより自分の中から返ってきたものについて、続くエントリで書いてみようかと思います。

コメント

非公開コメント

プロフィール

水響俊二

Author:水響俊二
水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
   

最新記事
最新コメント
カテゴリ
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
月別アーカイブ
アクセス解析中