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ラノベ: 『なれる!SE8 案件防衛?ハンドブック』感想

 なんだかまーた可愛い女の子が登場していますね。SEの世界でしょ?リアリティがないですよ、リアリティが!
 …………あ、これラノベでした
なれる! SE8 案件防衛?ハンドブック (電撃文庫)なれる! SE8 案件防衛?ハンドブック (電撃文庫)
(2012/12/08)
夏海公司

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 なんだか、ドキュメンタリーかそれ風味の小説のような作品なんで、ついねー(笑)。

 前巻がとても曖昧な幕切れで、なおかつ引きの強い終り方だったので8はつづきかなーと思ったら、NBLの件とかはほとんど「終わったこと」で、全くと言っていいくらい触れられていません。
 とすると別個の話なのか、ということになりますがさにあらず。

 本作は紛う方なき続編、というか7と8で前後編となっている、と私は思いました。
 この、作者さんの物語構成力には畏れ入りました。また、これは後述しますが、物事(ここでは作品)の本質をしっかり掴んで見失わないところも、賞賛に値するかと。

 さて、簡単にあらすじをば。

 前巻のラストで突然解約されてしまったリドルトリル。これには実は、今回登場した会社である「アルマダ・イニシアティブ」が関わっていました。
 工兵はあるとき、江古田建設なる大企業のネットワーク構築の案件のコンペに挑むことになりますが、そこで、自分と同じく新卒の女の子と出会います。名前は次郎丸縁。彼女はアルマダ・イニシアティブからやってきた、提案責任者だったのです。
 結局このコンペでは、工兵たちのスルガシステムのものを含め、業界最大手のJT&Wの選りすぐりメンバによる提案も押しのけ、縁が案件を勝ち取ります。

 ところが、ことはそれだけでは済まず、スルガシステムの既存顧客が次々とアルマダ・イニシアティブに、というか縁に奪われていきます。
 どうやらこの会社、ターゲットに業務コンサルとして入り込み、既存システムを含めて情報にアクセスし放題という状況を作り出し、それで競合よりも有利で万全な提案をするという、道義的にはかなりアレなことをやっていたのでした。

 そしてその魔の手はついに、あの業平産業にまで及びます。そのことは、橋本さんから(裏事情については内々に)伝えられ、工兵は愕然とすることになるのです。

 と言った経緯で、スルガがやるはずだった新DCについては見直しとなり、新たな提案でアルマダと競うことになります。勿論、相手は縁です。

 この縁というのが工兵とよく似た人物で、しかし、そのバイタリティというかハングリーさというか執念がまるで違います。工兵はそれを実感し、気持ちを新たに業平の案件対応に臨むのです。
 で、最終的にはなんとかアルマダに打ち勝つことになるのですが……。

 今回の話をとてもよく表現できる言葉が、藤崎さんから発されています。

「勘違いしないでほしいけど、提案のツールは見積もりや提案書だけじゃないよ。接待や事前の人出し、競合候補の抱き込み──協業工作だって立派な武器だ。ゲームは提案会場だけで行われるんじゃない。勝手に盤面を狭くとらえて戦ってると」
 ──掬われるよ。


 というわけで工兵が取った手段が、アルマダが自身でコンサルを担当して作成したレポートに、こっそり話を通しておいたJT&Wの無料コンサルをぶつけるという、相変わらずの無茶振りでした。

 縁のモノローグより。

 敵は単純にこちらの土俵で戦ってきただけだ。技術には技術を、値引きには値引きを。そして謀略には謀略を。結果、自分達はあらゆるフィールドで敗北した。言い訳のきかない、完膚なきまでの惨敗だった。

 前巻は結局政治がらみの話で、工兵たちはなんとか逃げ出したにすぎなかった。
 しかし今回は、工兵たちは「政治」を使って勝ったのでした。これが、私がそれとこの8巻を「前後編」と表現した理由です。

 ここで、重要なことがあります。
 工兵たちは、政治を使って勝ちましたが、「政治で勝った」わけではないということです。工兵が策を弄したのは政治をツールとして使っただけで、政治の世界に踏み込んでしまったわけではない。
 これが、あの後味の悪い7巻の政治問題に対する、作者さんの「答え」なのかもしれません。自分達もはまりこんでしまうのではなく、止揚させるかのように。

 そして、その「政治」を使って状況がどうなったかというと、全ての競合点はチャラになり、そこには技術のみが残ることになりました。
 クライマックスシーンでの、立華の「暴風のような技術論」が輝いています。

 このシリーズは一体何なのか。何のために、何を描くために書かれているのか。
 これは『なれる!SE』というシリーズであり、やはりSEを描くのがテーマであるはずです。
 こういう世界なので、政治の話も避けて通れるわけではありません。しかし、それを描きつつなおかつ、SE、技術をメインにすえる、そこのところを踏み外さないで物語を組み上げられる、作者の夏海さんには敬意を表したい。7巻は、これのために書かれたのかも知れません。
 以前突っ込みを入れたような方々もこれを読んで見習って欲しいくらいです。

 といったような感想に、あとは雑感をいくつか。

○ コーディング
 今回、スルガシステムのSD部(Software Development Division - ソフトウェア開発部)の人が登場するんですが、そのからみでちょっと驚いたこと。
 工兵、これまでコード書いたことなかったんですねー。立華もどうやら本格的には書けないようですし。勝手に思い込んでいただけですが、ちょっと意外。
 藤崎さんと工兵の会話の中で関連する話が出てきたのですが、もしやこの先、工兵がそっちにも手を出すという伏線ですか(笑)?

○ 誉
 工兵の妹の誉が電話で再登場しますが、これまた相変わらず大人物ですねー。ちょっとおバカなところがむしろその人物の大きさを感じさせるスパイスになっているような気さえします。
 しかも、結構モテるらしい。

○ ライバル
 新しく登場した縁ですが、工兵と同じ新卒で、性格面でも守備範囲でも近く、今回の敗北ですっかり工兵をライバル視していますし、主人公の工兵にライバル登場、ということでしょうか。
 これは即ち、これまで「凄い」人たちばかりの中でルーキーの工兵、という構図だったのが、工兵もついに一人前の主人公と認められた、ということなのかも。

○ チェスター・ローズ
 アルマダのトップ。エグい仕事をする人ですが、さすがと言えるところもあります。今回縁が叩きのめされるところに助け船を出さなかったのも、「敗北を知るのもよい勉強だろう」という意図がありましたし、虚勢を張ってはいても一人になって悔し涙にくれ、ローズを失望させたと嘆いている縁にはこんなことを言っていました。

 格好悪い、なんてざまだ。ボスも幻滅だろう。なんでこんな未熟者に大事を任せたのか。他案件にまで悪影響を与えて、二度と主担当などやらせるものか──
 ローズは溜息を一つ、小首を傾げた。
「なぜ泣くことを嫌がる?」
「……え?」
「勝負に負けへらへらしていられる人間など私のチームに必要ない。敗北して悔しがるのは当然、泣くほど屈辱ならその思いを次回にぶつけたまえ。それともなんだ、君の気持ちはたった一回の挫折で折れる程脆いのか?」
「そんなこと……そんなことありません!」


 こういう人がついているとなると、ライバル視されている工兵も前途多難ですね……(笑)。

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Author:水響俊二
水響 俊二 [MIZUKI Shunji]

暫定的に、18禁作品の感想などは裏サイトで書いています。
 

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